少女趣味こーなあ 長屋版

今月の少女趣味こうなあ二十

幻の花 石垣りん

庭に

今年の菊が咲いた。

 

子供のとき、

季節は目の前に

ひとつしか展開しなかった。

 

今は見える

去年の菊。

おととしの菊。

十年前の菊。

 

遠くから

まぼろしの花たちがあらわれ

今年の花を

連れ去ろうとしているのが見える。

ああこの菊も!

 

そうして別れる

私もまた何かの手にひかれて。

熊さん 石垣りんさんは、詩人。千九百二十年生まれ。二千四年死去されました。

ご隠居 年をとってくるとこの詩がよくわかるような気がするなあ。

熊さん 子供のとき、季節は目の前にひとつしか展開しなかった。今は見える去年の菊。おととしの菊。十年前の菊というフレーズは、本当にその通りですな

虎さん そういえばよく、出直す人の前には先祖が現れるなんて言いませんでしたか。

熊さん そんな話よく聞くなあ。亡くなった人が会いに来るなんていうもんな。

ご隠居 父も晩年、今日は誰が来た、昨日は誰が来たとか、亡くなった人が会いに来たような話をしていたなあ。それからじきに出直したな。

    そういえば向こうの知り合いとこちらの知り合いで向こうの知り合いのほうが多なったら、そろそろ潮時らしいで・・・。

熊さん そいで向こうの代表がお前もそろそろ来いやって、言いに来るわけですか。

虎さん ほんだらご隠居さん、まだまだだいじょうぶですなあ。。

ご隠居 うれしいこと言ってくれるな。

虎さん そら、向こうの人も来て欲しいとは思わんもんな。

熊さん こっちもおって欲しいとも思わへんけどな。

ご隠居 お前ら店賃上げるぞ。